2010年7月

ITRS Summer Meetingに出席して

私は、国際半導体テクノロジーロードマップ(International Technology Roadmap of Semiconductor, ITRS)における新探求材料(Emerging Research Materials, ERM)を担当するワーキンググループの日本側委員会のリーダーで、2010年7月11~13日にかけてサンフランシスコで開催されたこのITRS国際会議に出席した。この会議には、日米欧の3極から半導体技術に係る専門家が集まる。担当する技術分野における研究開発の進捗状況を把握するとともに、研究開発ニーズと学術的・技術的ボトルネックを明確化し、今後の進むべき道をロードマップとして示すという作業を、それこそ「あーでもない、こーでもない」と議論する。私は、ナノエレクトロニクス分野における新材料と不揮発性メモリ分野の専門家として、日本にとって有利になることを最優先にして会議運営を先導したり、半導体技術の振興のために情報を進んで共有したり、さらには、持続的な社会の発展という大局に立ってビジョンを語ったりと、時間軸と極という空間軸がなす領域において、それぞれに応じた立場を使い分けて議論を行うことにしている。それゆえ、3極の研究者群の違いについて、考えを巡らす機会が多くなる。
その違いの1つに、特に米国からの参加者が、情報を集約し、共有することを極めて重要視していることがあげられる。また、たとえ見掛け上であったとしても、得られた情報を公平に判断してロードマッピングする仕組みを構築することに、欧米人は長けている。とにかく、日頃から電話会議やワークショップを何度も開催して、貪欲に情報を仕入れていることに間違いは無い。日本が昼間の時間帯に電話会議を開催するためには、俺の言うことが一番大事というシチュエーションを作る必要がある。話が飛んでしまった。
そして何よりも一番感心するのは、集めた情報から得られた自分たちの判断を、未来に向けて活用しようとするその姿勢である。彼らが研究開発に係る事業提案を行う際には、「自分たちのビジョン、それを実現する戦略と計画を信じてくれ」という説明の仕方をしているように思えてならない。翻って、我が国はどうか?幾ら情報を集めても、それらを構造化して分かりやすく整理しても、最後の最後は、すでにあるもの、多くの場合は海外における同様な研究開発成果や動向との比較でしか議論を行えない。研究開発に係る事業提案をする場合にも、まさにその比較結果が採択の判断基準となっている。キャッチアップすることが必要であるという危機感が、採択の可能性を上げるという仕組みである。
イノベーションとは、未来の創造ではないか?であるならば、最初から我が国は勝負に負けている。この悪しき慣習をなんとかして変えることを自分に課していきたい。

意見交換広場の開設

qwikWebという産総研開発ソフトを使って、NPFユーザー、NPFスタッフ、そして装置製造企業からなるネット上の意見交換広場を作りました。まずは、ナノサーチ顕微鏡のユーザーの方々にご参加のお願いを始めます。普段は、ユーザーの方と装置担当スタッフ1対1のお付き合いが多いわけですが、ICTツールを活用し、時間軸、空間軸に沿ってそれらのお付き合いを一か所に集約するとともに、ご参加されている方々同士のコミュニケーションを促進したいと考えています。そして、可能かどうか全くわからないのですが、このバーチャルな場における情報交換や討論を通じて集合知のようなものが形成されるとか、あるいは当該装置を使って解決すべき新しい研究開発課題が浮き上がってくるとか、そのようなイノベーションを期待しています。qwikWebは、Wikiとメーリングリストが一緒になったような機能を持っていて、参加者が自由にそのサイトのコンテンツを積み上げていくことが出来るようになっています。操作は、簡単(と、言われています。パソコンが苦手な私には、ちょっとだけ抵抗がありましたが)。ナノサーチ顕微鏡だけでなく、皆さまからのご希望があれば、他の装置についても同様な場を開設していきます

NPF立ち上げ記録-4

ナノテクノロジー総合支援プロジェクトには、4つの機能別グループがありました。産総研は、その中の極微細加工・造形グループの幹事機関に指名されました。誤解を招くことを恐れずに言ってしまうと、産総研は文部科学省傘下の独法機関ではありません。そうであるにも関わらず、産総研を幹事機関に指名してくださった当事業の運営委員会の先生方、文部科学省担当室の方々に、今でも心から感謝しています。幹事機関として、一番初めに行ったのは、極微細加工・造形グループ参画機関である、東京工業大学、早稲田大学、大阪大学、広島大学と産総研を合わせた5機関間で、「研究支援のあるべき姿」、「支援依頼元との契約締結にかかわる考え方」、「機関内や海外機関から研究支援依頼があったときの対応の在り方」などについて、統一的なガイドラインを定める作業でした。生い立ちのことなる5機関間で、統一ガイドラインを定める作業は相当に大変な作業で、第一回グループ会議後、電子メールだけでなく、電話でも激しい(?!)議論を重ね、平成14年度末にガイドラインのリリースをすることが出来ました。そしてこの激しい議論の末に得られたものはガイドラインだけではなくグループ機関間の信頼関係であって、その後の事業推進において、むしろこの信頼関係のほうがより重要ではなかったかと思っています。グループ内のチームワーク力はピカイチで、後に、5機関連携の人材育成スクール等としても結実しています。

共用施設スタッフと提供サービス2

前回の続きです。
幸いなことに、NPFに集まってくださった専従スタッフは、研究支援業務を真摯にこなしてくださる方々ばかりでした。そのようなこともあり、NPFでは、「ありがとうございました。おかげさまで、○○○が出来ました」とか、時には「おかげさまで卒業することが出来ました」とか、そのような声まで聞かれるようになりました。ユーザーの声が、テクニカルスタッフの心の支えとなります。しかしながら、「テクニカルスタッフにはルーチンワークしか期待しない」、「(ルーチンワークだけを行うようにマネジメントすれば)テクニカルスタッフが退職しても、全く同様に分析・評価を提供することが出来る」と主張される方も、産総研の別の共用施設にはいらっしゃいます。この点については、今後も議論をしていきたいと考えています。
少なくともNPFにおいては、「私たちだからこそできる、最良で、最先端のサービスを提供していきたい」と思いますし、それを目指していきたいと強く考えています。正直なところ、様々なご依頼の全てに対して、いつでも最良の解をご提供できるほどの実力はまだ備わっていないかもしれません。それでも、いつでもユーザーの立場に立って、私たちのできる最善のサービスを考えるという姿勢を持つ努力を続けていこうと思います。

共用施設スタッフと提供サービス1

現在のNPFにおいて、ユーザーの方々とのインターフェース機能は施設専従スタッフが担っています。これらの方々は、テクニカルスタッフと呼ばれることもあります。ブログに残すには不適切かもしれませんが、NPF立ち上げ当時、テクニカルスタッフといわゆる研究者との間に、上下関係を求めるユーザーの方々が少なくありませんでした。NPF立ち上げ時、私が苦しかったことの1つは、如何にしてテクニカルスタッフがacknowledgeされる文化をNPFとNPFユーザーに根付かせるかということでした。Acknowledgeという英単語に適切な和訳が無いことを考えると、日本の研究開発社会そのものがこの文化を持っていなかったのかもしれません。文科省委託事業NPPPを開始する際、共用施設の重要性に早くから気付き、当事業を強力に推進することを指導されていたS先生から、「文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクトの本当の目的は、研究を支援する人たちの貢献が正当に評価される文化を根付かせることにあるんです。産総研ならそれが出来るかもしれません。是非、頑張ってください。」とご指導いただきました。この時に感じたゾクゾクするほどの使命感は、いつまでも忘れずにいたいと思います